平成30年1月9日 中学校全校集会 校長講話

平成30年1月9日 中学校全校集会 校長講話「プロセスと結果」

【はじめに】

昨年の4月から、ともに学校生活を過ごし始めて10か月がたとうとしています。皆さんの頑張りを目にして、この間の成長ぶりに驚いています。最近、感心させられた2つの出来事を紹介します。

1つ目は英語のプレゼンテーションです。10月の2年生英語表現基礎の授業で、各自が海外の国々について調べた結果についてタブレット端末を使って発表する様子を見学しました。約半数の生徒は予め用意した原稿を見ながらの発表でしたが、12月、福井県について調べた結果を発表する授業では、ほとんどの生徒が、タブレットに映し出した資料を自分の言葉で紹介していました。わずか2か月の間に「説明」から「プレゼンテーション」へと飛躍的に成長していました。

2つ目は生徒総会での出来事です。これまでの生徒総会では質疑はほとんどなく、原案どおりの可決、執行部案の追認でした。ところが12月に開催した臨時生徒総会は一変。執行部からの給食委員会新設の提案に対して、2年生からの給食委員会の業務(担当)内容に関する質問を皮切りに、3年生や1年生からも、保健委員会との業務の住み分けはどうなるか?、保健委員会が代替実施すればよいのでは?、代替実施は保健委員の負担が重くなるので反対、などなど次々と意見が出されました。全校生徒の前で堂々と疑問点を確認したり、賛否双方の立場から自分の意見を述べたりする生徒を見て、頼もしく感じました。

さて、今年は福井元気国体と障害者スポーツ大会が開催されます。福井県で初めて国体が開催されたのは50年前の1968年のことでした。この年は明治維新からちょうど100年の節目に当たることから、「明治百年記念第23回国民体育大会」の名称が使われました。それから50年後の今回は「明治150年記念」の冠称が用いられています。福井県と明治維新との不思議なご縁、巡り合わせを感じます。

【君たちはどう生きるか】

明治維新(1868)からの150年を振り返ると、前半は、日本の近代化と富国強兵、そして太平洋戦争(1941~1945)への道のり。後半は、戦後復興と国際協調、そして地域主義への変遷、と言えます。

150年の折り返しの頃は、福井市出身の岡田啓介が内閣総理大臣に就任(1934)し、その2年後には226事件、さらに翌年には盧溝橋事件、日中戦争が起こるなど、太平洋戦争へと突入していった時期にあたります。

その最中に出版された本が、今、ベストセラーになっています。学校の図書館にも文庫本と漫画本があるので、既に読んだ生徒もいると思います。「君たちはどう生きるか」(1937、吉野源三郎著)。私も正月休みに読みました。その中で特に印象に残った一節を紹介します。

「人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて」

(前略)人間として生きていく途中で、子供は子供なりに、また大人は大人なりに、いろいろ悲しいことや、つらいことや、苦しいことに出会う。もちろん、それは誰にとっても、決して望ましいことではない。しかし、こうして悲しいことや、つらいことや、苦しいことに出会うおかげで、僕たちは、本来人間がどういうものであるか、ということを知るんだ。

(中略)

苦痛を感じ、それによってからだの故障を知るということは、からだが正常の状態にいないということを、苦痛が僕たちに知らせてくれるということだ。

(中略)

心に感じる苦しみやつらさは人間が人間として正常な状態にいないことから生じて、そのことを僕たちに知らせてくれるものだ。そして僕たちは、その苦痛のおかげで、人間が本来どういうものであるべきかということを、しっかりと心に捕らえることが出来る。(後略)          『君たちはどう生きるか』(ワイド版岩波文庫)から抜粋

昨年を振り返った時、皆さんは多かれ少なかれ「悲しい、つらい、苦しい」経験をしたのではないでしょうか。勉強や部活を頑張っているけど、結果に表れてこない。友達や家族に自分の気持ちが分かってもらえず、人間関係がうまくいかない。先ほどの本の中の言葉を借りると、こうした経験に「出会うおかげで、僕たちは、本来人間がどういうものであるか、ということを知る」ということになります。つまり、「つらい、苦しい」経験は、人間として成長する時に避けて通れないプロセスと言えるのではないでしょうか。

【「プロセス」と「結果」】

ここで、「プロセス」と「結果」について考えたいと思います。プロセス(process)を辞書で調べると「過程、手順」と書かれています。関連する単語としてはプロスィード(proceed)、proには「前へ」、ceedには「進む」意があり、合わせて「続行する、進行する」という意味になります。つまり、プロセスとは物事を前に進めるための手順であり過程なのです。

イチロー選手は結果とプロセスに関して次のように言っています。「結果」は野球を続けるために必要なもの。「プロセス」は人間を作る上で必要なもの。

先の本の一節とイチローの言葉から、私なりに次のように理解しました。「目標に向けて前に進もうとするときに直面する、つらい、苦しい経験は、人間として成長する時に避けては通れないプロセスである」

もし、皆さんが、「つらい、苦しい」と思っていることがあったら、その「結果」と「目標」、「プロセス」は何だったかを考えてほしいと思います。もし目標を実現できなかった、思い通りに進まなかったときには、「自分って駄目だなぁ」と自己否定、自己嫌悪に陥る前に、そこに至るプロセスはどうだったか考えてみてください。ひょっとしたら、プロセスに対して目標が高すぎたのかもしれません。

プロセスがしっかりと考えられていて、自分が納得できるだけの努力を行ったのなら、そのこと自体、とても立派なことです。結果が伴わなかったのは、自分が想定(期待)していた時間感覚にズレがあったのかもしれません。自分で考えた時間軸をもう少し伸ばして、諦めてしまわずチャレンジを続けてみてはどうでしょうか。

【「結果」の次に考えること】

「プロセス」と「結果」について考えるだけでなく、もう一歩先を考えてほしいと思います。それは「結果を受けて、これからどのような行動をとるべきか」です。

「結果」は過去の事実に過ぎません。目標を達成できた場合も、残念ながら達成できなかった場合もあるでしょう。その結果を受け止めて、皆さんがどう変わるのか、変わろうとしているのか。過去の結果にあぐらをかくことなく、また、悔やみ続けることなく、未来のこと、これからの「行動」や「変化」について考えることが重要です。

現在、皆さんが位置している座標軸上の地点がより高いに越したことはありませんが、むしろ、ベクトルの向き(目指す方向)と長さ(思いの強さ)を大切にしてほしいと思います。

今年、皆さんが「つらい、苦しい」ことに直面した時には、成長するチャンスとポジティブに受け止めて、「プロセス」と「結果」を振り返り、どう変わるか、どう行動するか考えてほしいと思います。先生たちも学校も、皆さんを全力でサポートします。